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-バックナンバー- 20006年7月号
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フェアリーインタビュー

タカラヅカには女性が男役を演じる確かな意味がある

「キャリエールは自分が父親であることを明かさずに、オペラ座の地下に住むファントムを支えてきました。だからファントムから、ずっとお父さんと信じていたということを聞いた時に、感動という言葉では表現できないほど心を打たれるのです」

 2004年に宝塚歌劇団宙組で上演された日本初演の『ファントム』が、花組によって再演されると知った時、彩吹真央さんはキャリエールを演じたいと思った。

 フランスの小説家ガストン・ルルーの怪奇小説「オペラ座の怪人」をミュージカルに仕立てたものには、同名のアンドリュー・ロイド=ウェバー版があり、1986年に開幕後、大ヒットした。だが、これは25年の映画化と同様、怪奇物としての趣向が強い。

 このウェバー版のあと、91年に脚本家アーサー・コピットと作詞・作曲家モーリー・イェストンによって、ファントムの人間像を描いた「ファントム」が創られた。全編歌で進行する、この魅力的なミュージカルは、クラシックをモチーフにした美しい旋律に特徴があり、ファントムの苦渋に満ちた人生と究極の愛、そして純粋な心を余すところなく伝える。だが、歌いこなすには、音域も広く、かなり高度なテクニックが必要なのだ。宝塚版では、さらに2曲、イェストンによる新曲が加わっている。花組版でファントムを演じるのは、奇跡的な喉をもつトップスターの春野寿美礼だ。

「キャリエールにとって、ファントムであるエリックの、母ベラドーヴァとの恋愛は本物でした。すでにキャリエールは結婚していましたが、その結婚は自分が望んだものではなかったのです。ベラドーヴァと別れたのは、キャリエール自身、人間的に臆病なところがあったからでしょう。キャリエールに裏切られたと思い、生きる望みを失ったベラドーヴァは薬草を飲み、その結果、この世のものとは思えない醜い顔のエリックが生まれてしまった。キャリエールは二人を置き去りにしたことを悔やみ続けて生きてゆきます。後半、自分の全てをさらけ出して父親だと名乗る瞬間、キャリエールはいっとき、喜びを感じます。けれども最後は、息子のエリックを、自らの手で撃ち殺さなければならない。生け捕りにされるより、愛するクリスティーヌの腕の中で死なせてやりたい。それがファントムの最後の望みだからです」

 その後のキャリエールは、さらに深い重荷を背負って生きるだろう。キャリエールの人生は、コピットとイェストンが人間ファントムを描くためにどうしても必要だったのである。キャリエールはファントムの心の闇に、ひっそりと、深く、寄り添っている。

『ファントム』の稽古が始まったのは、5月11日のこと。それまでレオナード役で出演していたシアター・ドラマシティ公演『Appartement Cinema』が3月29日に千秋楽を迎えたあと、彩吹真央さんは久しぶりの休暇を新しく購入したカメラを手にすごした。

 彩吹真央さんのカメラ好きは、もうみんなが知っていることだが、2004年5月にバウホールで単独初主演した『NAKED CITY』でカメラマンのビリーに扮し、リアリティある演技が注目されたのを思い出す。といっても、このときのビリーはスクープ写真専門のゴシップカメラマン。ご本人は「他愛のないものを撮るのが好き。ファインダーを覗いて感じたままに出来上がっていればうれしいという程度の趣味」という。つまり、裏街道を歩くビリーがすこぶるカッコ良く見えたのは、男役・彩吹真央の芸のうまさなのである。


あやぶきまお・1994年『火の鳥』で初舞台。翌年雪組に配属。98年10月に花組に組替え。2000年『源氏物語あさきゆめみし』新人公演の光源氏役で初主演。01年バウ・ホール公演『月の燈影』で蘭寿とむと共にバウ初主演。04年『NAKEDCITY』でバウ公演単独初主演。

大阪府出身/愛称・ゆみこ

カメラでリフレッシュしている花組彩吹真央さん。男役・彩吹真央としてどうありたいのだろうか?
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