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-バックナンバー- 20006年7月号
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フェアリーインタビュー

 リフレッシュして臨んだ『ファントム』の稽古。始まってまもなく、彩吹真央さんは自分の中に新しい高揚を感じた。

「自分の息子を射殺するなど、普通の人生ではありえないことです。その場面を初めてお稽古した時、まだそれほど感情移入をしていなかったのに、引き金を引いた瞬間、涙が止まらなくなった。やはり愛するエリックの命を自らの手で絶ってしまった事実の重さ、エリックにとってそれが幸せなんだという苦渋に満ちた選択、いろんな思いが交錯してー。初めて感じた、その思いを大切に演じたいなと思っています」

 母親にしか愛されなかったファントムの物語に終始、織り込まれている父親キャリエールの存在は苛酷だ。ラスト近く、「証しもなく信じていた、あなたが僕の父親だと」とファントムがキャリエールに告白する、銀橋での場面に、誰もが涙を堪え切れない。

「雪組から花組に移籍して8年。その間、ずっと春野さんの下ですごしてきました。春野さんが穢れのないファントムの心を演じていらっしゃるので、私は殊更老け込まなくてもいいんだなと思えてきます。自然に父親としての愛情に満たされます。もしかしたら私はキャリエールを演じること以上に、春野さんと一緒に歌えることがうれしいのかもしれませんね。特にお客様が楽しみにされている場面なので、100%キャリエールになって春野さんに向かいたいです」

 歌のうまさに定評のある彩吹真央さんの高音は、地声でも裏声でもなく、中間声というものらしい。音楽学校時代、すでに中間声が出ていた彩吹真央さんは、入団後は作曲の先生がたからも高音を与えられ、どんどん上達した。だが、「うまい人はたくさんいらっしゃいます。私は歌が好きなだけ」と彩吹さん。ゴールはないということなのだろう。

 これから男役・彩吹真央としてどうありたいですか、とお聞きすると、

「スタンスを広くとりたいと思います。舞台は生もの。相手の出方で受け方も変わる。細かく決めてしまわずに、相手との微妙なバランスを楽しめるようになりたいですね。大劇場の大きな空間を生かしながら、舞台に立っただけで、あ、キャリエールだ、と思っていただけるリアル感を出したいー。むずかしいことですが、挑戦します」

 花組版に新演出が加味された。そのうちの一つは、ファントムの従者たちが皆エリックのようにどこかに傷を抱え地上では生きられない人たちであるということ。それがわかる仕掛けだ。花組の持ち味が生かされて、よりリアル感を増す『ファントム』。

「やっぱり親子、どこかが似ている、そんなふうに演じたい」

 12年目の挑戦は、男役という、虚構の魂に立ち向かう。

ビョルン役を演じる十輝いりすさん



※次号のフェアリーインタビューは、花組の桜乃彩音さんの予定です。

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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
「仕事も!結婚も!」(恒友出版)


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