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-バックナンバー- 2003年7月号

「日本物は大好きです」という瀬奈じゅんさんが、宝塚大劇場花組公演『野風の笛』で柳生宗矩を演じている。新陰流の達人で将軍家の武芸指南役をつとめる柳生宗矩は、感情を表に出さない、ろうたけた人物。花組の準主役スターとして活躍中の瀬奈じゅんさんにとっては、辛抱を要求されるむつかしい役だろう。歌うのも踊るのも芝居するのも大好き、という気持ちが自然に溢れ出てくる明るさが男役・瀬奈じゅんさんの大きな魅力なのだから。けれども剣客・柳生宗矩として鮮やかに存在している瀬奈じゅんさんは、懐の深さという極上の魅力をつかんでしまったようだ。
「柳生というと立ち回りですが、春野寿美礼さん扮する花井主水正義雄に託された野風の笛を、轟悠さん扮する松平上総介忠輝に手渡す最後の場面で、轟さんと刀を少し合わせます。私は刀をつけたことはあっても、抜いたことがなく、切り方も刀の納め方もわからなかったので、轟さんに立ち回りを教えていただきました。今回の花組公演は、雪組から新専科に移られた轟悠さんが組に出演される初めての舞台です。轟さんと花組の春野さんはまったく個性がちがいますが、よく響き合って、すごく新鮮なんですよ。私もいっぱい学ばせていただいています」
 瀬奈じゅんさんは2002年、日生劇場公演『風と共に去りぬ』にスカーレット役で出演した。その時にレット・バトラー役で主演していたのが轟悠。二人はすでに共演ずみだ。
「男役でご一緒させていただくのは初めてなので改めて感じるものがあります。女役の目から見た轟さんの魅力は甘さと包み込むような大きさ。一緒にいたくなる安心感。男役から見た魅力は、吸い込まれてしまいそうな目の力、鋭さです。春野さんとは花組でずっとご一緒させていただいています。さわやかで、甘く、なんて貴公子なんだろうと、いつも刺激を受けているんですよ」
 2000年6月に新専科ができ、各組の2番手3番手クラスのスターが移籍したあとも、花組だけは元花組の新専科スターが出演して、約2年間、主要スターの顔ぶれは変わらなかった。5組中、最も歴史の長い花組の伝統を受け継ぐトップのもとで、瀬奈じゅんさんも入団以来、花組ひと筋。そこに轟悠が加わって生まれる絶妙の味は、何をおいても客席を陣取って味わわずにはいられない。 と同時に、瀬奈じゅんさんは稽古場で舞台で、さまざまな発見や驚き、そして勇気を体験したにちがいないのだ。
 ダンスを続けたいという強い気持ちで入団した瀬奈じゅんさんは、「いま1番楽しいとき」を、やはり踊っている瞬間だと言う。
 『レヴュー誕生―夢を創る仲間たちー』では、衣装デザイナーの苦悩をコミカルに軽快に歌い踊る、瀬奈さん中心の場面がある。
「下級生時代は、のびのびと楽しんでやっていました。その頃の自分にカツをいれたいですね。一昨年、ディナーショーをさせていただいた時に『あさこは一体、どうなりたいのか』と演出家の先生に聞かれて、初めて欲もなくのんびりしている自分に気づきました。目覚めるのが遅かったので、10年目にバウホールで初主演させていただいたのが、自分にはちょうどいいタイミングでした。新しいことにチャレンジして、どんどん吸収していきたいです。そのためにアンテナを張っていろんなことに気づける自分になりたい。男役・瀬奈じゅんにいただく形容詞が永遠に増え続ける、いつまでも進化し続ける可能性のある男役になれるよう、がんばります」

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