宝塚市在住の画家夫婦である元永定正氏と中辻悦子氏の2人は、日本の現代美術の世界で多方面に活躍され、国内外でも注目されています。2人は、現代美術の制作と、ともに30年近くにわたり抽象画による絵本制作にも意欲的に取り組んでいます。
例えば、「もけら もけら」(1990年)は、ジャズピアニスト・山下洋輔氏の言葉とモダンアートの旗手・元永氏の絵と美術家・中辻氏の構成といったコラボレーションにより出来上がった画期的なユニークな絵本ともいえます。山下氏の言葉がリズムとなり、元永氏の絵と、ともに自由に絵本の中を動きまわり、大人も子どもも思わず声を出して読んでしまうような不思議な体感を味わうことができます。
また、中辻氏の「よるのようちえん」(1998年)は、2人のニューヨーク時代からの友人である詩人・谷川俊太郎氏の言葉に、中辻氏の絵と写真で構成された作品が見事に融合し、夜の誰もいない幼稚園(モデルは伊丹市内の白ゆり幼稚園)を舞台に展開され、谷川氏の長男である賢作氏が作曲した楽譜もついている斬新な絵本です。殊に絵本に登場する多くのキャラクターの目の表情は、中辻氏独特の表現ともいえます。なお、この絵本は、第17回ブラティスヴァ世界絵本原画展(スロヴァキア)でグランプリを受賞しています。
今回の展覧会は、抽象絵画と独創的な言葉による誰も見たことのない絵本原画という切り口で、2人のこれまでの作品のなかから「楽しく」「明るく」「不思議な」といった絵本原画を陳列し、夢と楽しい会話が交わされる会場を企画しております。是非美術館で、2人の絵本原画の世界をご満喫ください。
(文 坂上義太郎 伊丹市立美術館学芸員)