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-バックナンバー- 20006年9月号
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フェアリーインタビュー
 さて、サヨナラ公演で湖月わたるさんが演じるのは、フレッド・ウォーバスク。孤児のフレッドは資産家の養子となって成長し、養父の事業を継ぐことになる。その直前、英国留学から帰国する船上での4日間が、この物語の舞台だ。

「事業に失敗した親のもとで我侭を言わないことを覚えたフレッドは、孤児院でも我慢強い子として評価され、大富豪の目にとまって養子になります。周りの期待通り一生懸命にがんばったフレッドは、事業の後継者になるべく、資産家の娘とも婚約。けれども、それらはすべて人から与えられた人生で、自分で選び取ったものではなかった。ケンブリッジの大学院を卒業して養父の住むニューヨークへ向かう大西洋横断豪華客船に乗り込んだ航海初日、フレッドは幼馴染のバーバラと出会い、忘れていた初恋を思い出します。原案は宝塚音楽学校校長の小林公平先生。船上という現実離れした空間で起こる、大人のおとぎ話ですね。反戦や悲劇もいいですが、たまには胸がキュッとなって、ほのぼのした思いを感じていただきたい。そんな明るいミュージカルです。脚本・演出の正塚晴彦先生とは、なんと『二人だけが悪』以来なんですよ。先生の作品に出たかったので、すごく幸せです。あまりお話をしたことがないのに、今の私のことをよくわかってくださっていて、お芝居している気がしないほど、自然にフレッドを演じています」  

船が陸に着くと、終わってしまう恋。このまま一生、決められた道を歩んでいくことが、自分にとって本当にいいことなのか、とフレッドは逡巡する。
「人から羨ましがられる境遇も、自分で選択したものではないから、本来の自分がどこかに行ってしまっているようなもやもやした気分で船に乗っている。ただ一生懸命期待に応えてきただけのフレッドは、バーバラと出会ったことで自ら手放していた選択の自由を思い出します。何もかも捨てて彼女と新しい人生を歩みたい―。けれども結局、船上だけのおとぎ話で終わるんですよね。バーバラのある言葉が、フレッドを現実に引き戻します。その現実は、フレッドが初めて自分で選んだ道。フレッドは覚悟を決めて戻るのです」  
迷いと選択。それは人間にとって、いつでも充分すぎるほどの事件だ。  

迷いのない人物を演じることでは、他の追随を許さない湖月わたるさん。『王家に捧ぐ歌』の戦士ラダメスはアイーダを愛して死を選び、『1914/愛』のシャンソン歌手アリスティド・ブリュアンはアデルを追い、『花舞う長安』の中国皇帝・玄宗は楊貴妃に溺れ、『長崎しぐれ坂』の卯之助は幼馴染の伊佐次を自分の手で捕らえて逃がす。力強くグイグイと観客の気持ちを引っ張っていく湖月わたるさんの熱い芝居に、どれほど感動したことだろう。  

フレッドとして悩み迷う湖月わたるさんの姿は、私たちが初めて観るワタルさんだ。  
ロマンチック・レビュー『ネオ・ダンディズム!』のダイナミックで華麗なダンスシーンも絶対、目に焼き付けておきたい! 「一人より、80人のエネルギーが揃ったとき、断然いいものができます。みんなが楽しんでやれてこそ、作品の命が燃え出すのです」  

最後の一瞬まで走り続けるトップの言葉に、不可能はない。
クリスティーヌを演じる桜乃彩音さん



※次号のフェアリーインタビューは、 雪組の凰稀かなめさんの予定です。

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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
「仕事も!結婚も!」(恒友出版)


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