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-バックナンバー- 2005年8月号
それにしても、1998年に『シトラスの風』で初舞台を踏んで以来、まさに突っ走ってきたという言葉がピッタリの音月桂さんだが、
「今思うと、猛ダッシュですね。やっと自分のリズムができてきたというところでしょうか。もっと周りを引き込んで引っ張っていけるような男役にならなければと思っています」と、自分を見る目は厳格そのもの。

 数ある抜擢の中でも、宝塚歌劇90周年の2004年9月に日生劇場特別公演『花供養』で演じた近衛信尋役は、歴史にも残る特別なものだった。歌と踊りと芝居が絶妙にミックスされているのが宝塚歌劇。だが『花供養』は、敢えて芝居だけのストレートプレイに挑戦した異例の舞台だった。

「あんなに心臓がキュッとなる舞台はなかったよね、と今でも出演者の間で話題になるほど緊張続きの毎日でした。それまで自分がいかに歌や踊りに助けられていたかということを実感したのもいい経験でした。とにかく本番の舞台の上がお稽古場以上に勉強になりましたし、新人公演が毎日続いているような緊張感や張り詰めた舞台空間―。でも、それがすごく気持ちよくて」

 いつも、終演後は役を引きずることなく、本来の快活な自分に戻る音月桂さんだが、『花供養』の時だけは近衛信尋役が乗り移ったかのように、後水尾天皇を演じる轟悠を、兄上、と呼んでしまうこともあった。

それだけ実りも大きかった。
『それまではどちらかというと、お芝居に対して少し苦手意識があったのですが、『花供養』のあと、自分はこんなにお芝居が好きだったんだと実感できました。でも遅いですよね、もっと早く気づいていないと』

ふと真顔になってそう言った音月桂さんの表情に、化粧品の宣伝スチールで見る、もう一人の音月桂の硬質な輝きが重なった。
「スチールはふだんメイクの化粧です。写真を撮られるのは、すごくはずかしくて、こんな感じですか、とお聞きしながらやっています」

 ごくプライベートな話題も一つ。
「チーズが大好きなので、いつかチーズのソムリエになりたいなと。舞台に直接、関係がないことでも、興味がもてるものは機会を見つけてやってみたいと思っています。引き出しを増やし、行く行くは舞台に生かせれば最高です」
 夢はやはり、舞台に行き着く。

「自分が惚れるような男性像をイメージし、創造の世界に一歩踏み込んで男に変身する。男役にパッと切り替える瞬間が楽しい。男役をやっていてよかったなと思います」
 すごくチャーミングな、自然体の音月桂さんを見ていると、パッと切り替える瞬間の鮮やかな魔法に眩惑されてみたくなる。

※次号のフェアリーインタビューは、 宙組の悠未ひろさんの予定です。

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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
 (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事  

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
 「仕事も!結婚も!」(恒友出版)