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-バックナンバー- 2005年3月号
宝塚歌劇団  昨年11月、月船さららさんは宝塚バウホール公演『THE LAST PARTY』でアーネスト・ヘミングウェイを演じた。少ない出番で主役のフィッツジェラルドとの対比を出さなければならず、むつかしかった。
「足を組む、お酒をのむなどの表面的な動きをそぎとったあとに残ったもので、どんなことが訴えられるだろうかと試行錯誤しました。手持ち無沙汰で何をすればいいのかわからないんですよ。内面からヘミングウェイの匂いを滲み出させるために悩み続けました。ところが本番を迎えた瞬間、その悩みが消えてしまった。そうか、自分が無になることが舞台をつくるんだと、ハッと分かったんです」

そのバウホール公演の後、月船さららさんは久しぶりの休暇を東京と宝塚でゆっくりすごした。黙々と本を読み、部屋を片付け、街を歩いた。ふだんは決してできないことを気持ちの赴くままにやるだけの日々。

「興味の対象が多くて、休暇にはこれをしよう、あれもしたいと思うのですが、今回は、もっと大事なのは静かに自分の内に向かうことではないかと思ったんです。今日一日私は何もしなかった、と罪悪感にとらわれることもありましたが、自分をじっくり見つめる時間をもったので、『エリザベート』のお稽古にすごく集中できましたね」

実は月船さららさんの大きな転機が、宙組から再び月組に戻ったときに訪れていた。

「組替え前には群舞の最後列にいた自分が、戻ってくると最前列。この位置に見合う自分にならなければと、いたたまれない気持ちになって。たぶん責任感が芽生えたんです。それからは次々と与えられた課題をこなすことに必死。でも宿題が出れば誰でもやりますよね。私が本当に変われたと思うのは新公卒業後、まだ本公演ではそれほど台詞が多くなく、もっとできることがあるはずだと、新しい課題を自分で見つけなければならなくなった時です。真の力量を試されていると思いました。自分が想像できることは誰でも必ずできるんです。例えば今の私は政治家や社長になった姿は想像できないから、できない。でも宝塚の舞台に立って幕を上げることなら、何があっても笑顔の自分が想像できるんです。自分にとって男役は大切。だからこそ苦しみながら演じたくはないんです。自分を無にして100%取り組んでいった時に出来上がったものを観ていただきたい。それが月船さららの個性であり理想の姿です」

7月、バウホールでの主演が決定している。



※次号のフェアリーインタビューは、専科の樹里咲穂さんの予定です。

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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
 (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事  

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
 「仕事も!結婚も!」(恒友出版)