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-バックナンバー- 2005年12月号


1998年3月、北翔海莉さんは新しく誕生した宙組披露公演『シトラスの風』で初舞台を踏んだ。この年の「宝塚おとめ」を開くと、北翔海莉さんは初舞台生39人中10番目に掲載されていて、すでにかなりの実力をつけていたことが分かる。翌年、月組に配属。そして同年には何と、あの名作『ノバ・ボサ・ノバ』で、出世役のドアボーイに抜擢された。

「歴代のスターが新人の頃になさった役だとあとから聞きました。主演男役の真琴つばささんと舞台の上で二人きりになる場面があり、緊張の毎日。『螺旋のオルフェ』でも真琴さんの影役で、仮面をつけて心情を表す役をいただき、物語の複雑な人間関係を理解するために台本の空白にいっぱいメモ書きしていたものを、たまたま真琴さんがごらんになって、がんばれよ、と書き添えてくださったんです。それを見た時は、とてもうれしかったです。競争の世界ですが、必ず手を差し伸べてくださる上級生がいらっしゃる。それが宝塚の良さです。これからは、下級生に困っている人がいたら力になれるようにならなければと思っています」

その後も北翔海莉さんの活躍は続いた。2000年、ドイツ・ベルリン公演に参加。01年、『大海賊』新人公演でエドガー、02年『ガイズ&ドールズ』新人公演でネイサン・デトロイト、『長い春の果てに』新人公演でクロードを演じ、03年『シニョール ドン・ファン』で見事、新人公演初主演を果たした。同年『薔薇の封印』、04年『飛鳥夕映え』の新人公演でも主演し、05年9〜10月、一段と華やかさを増した北翔海莉さんは宝塚大劇場新生月組披露公演『JAZZYな妖精たち』『REVUE OF DREAMS』の舞台で注目を集めている。

「新人公演では、上級生の真似をしても足元にも及びませんから、今自分がもっているもので精一杯ぶつかってきました。新公主演をさせていただいて感じたのは、主役の孤独感。舞台に一人で立って強いライトを浴びると、本当に周りが見えなくなります。1対2500人のパワーを出さないと、つとまりません。でも一度、経験すると、あとは平気。お客様の気持ちの温度が舞台まで届くバウホールでは、お客様との一体化を目指しました」

舞台と客席が近い500人劇場のバウホールでの主演経験は、大劇場公演で大きく花を咲かせる。「『JAZZYな妖精たち』で宝塚歌劇では初めて本格的なアイリッシュ・ダンスを披露しています。私は妖精ピクシー役。現実にはいないものを信じる気持ちをもう一度、お客様には、呼び戻してほしいです。映像の世界ではさまざまなものが見られますが、人間が演じるナマの舞台でどんな現象が起こるか、舞台の不思議さ、おもしろさを感じてください」

スターが放つ光は、夢見る力を喚起させる。

「歴代の大スターの方々がいて、今があります。初演『華麗なる千拍子』の寿美花代さんをビデオで観た時、衝撃を受けました。舞台機構も今ほど進んでいなくてスタンドマイクの時代なのに、今の大劇場よりも大きく見えるのです。私も人が真似できない、自分の大きさを出せる舞台人になりたいと思います」
 北翔海莉さんの中には、伝統と未来とつなぐ夢物語がひそんでいる。

※次号のフェアリーインタビューは、 花組の遠野あすかさんの予定です。


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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
 (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事  

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
 「仕事も!結婚も!」(恒友出版)