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-バックナンバー- 2002年8月号

 「和央ようかさん扮する若様のそばにいられるのがうれしくて、若についていけば、という伊三の思いと、新トップ和央ようかさんについていこうという私自身の思いが重なりました。また新人公演では海人をさせていただき、新人公演の長として下級生をひっぱっていく自分の思いがだぶりました。私にとっては舞台に立っている時が一番幸せで、どこでもいいから大好きな舞台に立っていたいと思っていたんです。でも、新人公演とはいえ、真ん中に立っている自分を自分自身が許せなくて…。今の時期の退団は応援して下さっているファンの方に本当に申しわけないとも思いましたが最後の舞台で少しでも恩返しが出来るよう精一杯頑張りますので、最後の瞬間までよろしくお願いします」
 自分を許せないというのは、許してはいけない、という潔癖な思いが周囲の期待や賞賛に勝つからだ。
 久遠麻耶さんが宝塚歌劇を初めて観たのは91年、宝塚大劇場公演『ヴェネチアの紋章』『ジャンクション 24』だった。
 「バレエ教室に一緒に通っていた友人のお母様に勧められて、宝塚歌劇って何?と思いながら、熊本から母と観に来ました。大浦みずきさんのサヨナラ公演でチケットがとれないことも知らず、立ち見でした。その半年後に音楽学校に入りましたが、何より毎日踊っていられることが幸せでした。その思いは劇団に入ってからも変わっていません。宝塚に入らなかったら出会わなかった人たちがたくさんいます。ファンの方たちも含めて、仲間と会えなくなるのは、すごく寂しい。悔いはありませんが、別れを思うと辛いです」
 7月12日から宝塚大劇場で始まった『鳳凰伝』〜カラフとトゥーランドット〜は、古代中国を舞台にした豪華絢爛なコスチュームプレイだ。18世紀ヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツイによる寓話劇だが、作曲家プッチーニの遺作オペラが馴染み深い。久遠麻耶さんが扮しているのは盗賊タン。
 台詞にたびたび出てくる命という言葉が、久遠麻耶さんの胸深く、日々、しんしんと下りて行く。男役・久遠麻耶が燃え尽きる瞬間が、刻々と近づいているのだ。
「宙組の一員であることを誇りに思っています。退団しても大好きな宝塚を観続けたいです」

インタビュアー
 名取千里(なとり ちさと)

  (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
  /宝塚NPOセンター理事
  主な編著書
  「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
  「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
  「仕事も!結婚も!」(恒友出版)
 
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