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-バックナンバー- 2002年5月号

 星組の新トップスター香寿たつきさんが、 まだ専科に所属していた昨年7月のことだ。
 男女混合ミュージカル 「天翔ける風に」 に出演して、 ヒロイン三条英を演じた。 野田秀樹の戯曲 「贋作・罪と罰」 を、 謝珠栄が構成し演出と振付をした話題作だが、 私は何よりも香寿たつきというミュージカルスターの存在自体に深く感動し、 幕が下りてもしばらく席から立ち上がれなかった。 当時、 すでに香寿たつきさんは星組の次期トップに決まっていた。 トップスターといえば男役の頂点だ。 ファンが観たいと熱望するのはもちろん男役・香寿たつきの舞台姿。 その輝かしいトップ披露公演を目前にして、 初めて外部出演しヒロインを演じるー。 新専科制度導入後、 初の試みでもあった。 それが試練ではなくていったい何だろう、 とファンなら誰もが思ったはずである。 期待どおりに高い評価を得た香寿たつきさんの実力は、 だから本当にすごいの一言に尽きるのだ。
  「劇団から出演する意志があるかどうか聞いていただいたし、 私自身がぜひ出たいと思ったので出演しました。 本がすばらしい上に謝先生の感性あふれる演出が新鮮で、 すごく大きな経験をさせていただきました。 私は宝塚歌劇団では上級生だけれども他の舞台は演じたことがないので、 集合日には、 世間知らずで気がつかないことがあると思いますし、 教えていただかないといけないこともたくさんあると思いますのでよろしくお願いしますとご挨拶しました。 それを皆さんが快く受け止めてくださって、 すべての面で気持ちよく教えていただいたので、 改めてお芝居の楽しさを感じました。 驚きの連続というか、 例えば最初の本読みの時に急に走り出して台詞を言う人がいたり、 アドリブが稽古場から続出したり。 舞台に立ってからも毎日、 違う場所から台詞が飛んできて、 慣れるまでは、 どうしよう、 と。 でもいつのまにか対応している自分が出来上がっていて楽しかったですね。 同じことを宝塚でやればいいというのじゃなくて、 一つの台詞でもいろんな言い方に挑戦して、 もっと想像力を働かせよう、 もっと違うやり方をしてみよう、 とチャレンジする人が増えてくれたら、 私が外部出演した意味があるかなと思います」
 宝塚に戻って男役が出来るのが楽しみだった、 という香寿たつきさんの言葉は力強い。
 東京宝塚劇場と中日劇場でトップ披露公演を終え、 4月12日から宝塚歌劇発祥地に建つ宝塚大劇場でのお披露目公演 『プラハの春』 『LUCKY STAR!』 が始まっている。 宝塚グランド・ロマン 『プラハの春』 は元外務省外交官・春江一也氏の長編小説 『プラハの春』 をミュージカル化した舞台だ。 香寿たつきさんはチェコ・スロバキア大使館員の堀江亮介に扮して、 渚あき演じる反体制活動家の経歴を持つ東ドイツ人女性カテリーナと禁断の激しい恋に落ちる。

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