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-バックナンバー- 2002年4月号

 「琥珀色の雨にぬれて」―なんと優雅なタイトルだろう。
 舞台は1922年のパリ。戦線から疲れて戻った青年公爵クロードは、フォンテンブローの森で神秘的な女性シャロンに出会う。シャロンは社交界に君臨するマヌカンだった。シャロンに恋するジゴロのルイ。クロードを愛するフィアンセのフランソワーズ。それぞれの思いが絡み合う中、クロードとシャロンは、いつか二人で幻想的な琥珀色の雨が降るという、北イタリアのマジョレ湖へ行こうと、約束を交わす。
 「クロードにとって青春の1ページ、人生で忘れられない恋だったと思います。今まで生きてきた中で求めていたものがきっとシャロンにあったと思う。クロードを演じて思ったのは、フランソワーズにも一生懸命、シャロンにも一生懸命、恋をしている。若い男なら誰もがもつ気持ちなんじゃないかと。この作品はせつない悲劇というより、強烈なラブストーリーなんです」
 そう熱っぽく語ってくれる匠ひびきさん。クロードを演じる花組のトップスターである。
 細い身体と、すごく長い脚。表情を変えず、颯爽と歩く男役・匠ひびきは、どこから見てもクールなイメージだった。ところが実は、かなりの感動派。匠ひびきさん自身の告白では、台詞に音楽が重なると身震いするほど感情が高まってくるという。これまでは、その感動をあえて抑え込む演技を自分に強いてきたわけだが、例えば「タンゴ・アルゼンチーノ」のドイツ人男爵カール。彼は陸軍大佐でプライドが高く、妻の裏切りを知っても人前では決して冷静さを失わなかった。嫉妬がほんの少し見え隠れするのがカールの魅力。熱く高揚した気分を衣装の下に押し隠し、男役・匠ひびきはクールな魅力に徹してきたのである。
 「クロードのようなタイプを演じるのは初めてです。見た目はタキシードやスーツで、今までの匠ひびきと何ら変わりはありません。でもクロードには、どこか男のかわいさ、少年っぽさがあると思う。先生には、フランス人になれ、と言われています。むつかしいけれど、演じれば演じるほど、すごく柔らかい気持ちになっていきますね」
 フランス男、フランス女が織りなす極上のラブストーリーなのだ。性別を越え、人種を越える、男役の徹底した虚構性。演出家の過酷な要求にトップ匠ひびきは応え続けてきた。
 本当に惜しいと思うのは、3月の宝塚大劇場公演のあと、5、6月の東京宝塚劇場公演を最後に、匠ひびきさんが退団してしまうことだ。数作分、凝縮させたほどの熱意のぶつかり合いが、稽古場から生まれていた。特に、併演のショー「Cocktail〜カクテル〜」では、大浦みずき以来のダンスの花組を継承する、スターダンサー匠ひびきが、これまでにない数の早替わりに挑んでいる。

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