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-バックナンバー- 2002年11月号

「トートを演じるためには迫力が必要なんです。お稽古場でお腹の底から歌い上げていると、すごく気持ちがいいんですよ。でも、ある日、歌い終わったあとでフッと寂しさを感じてしまったんです。それは私がトートのカッコよさや強さを求めていただけで、エリザベートを愛する気持ちを忘れていたからなんですね。トートの存在はエリザベートを愛することに尽きる。それに気付いたことで、甘美な世界を描きたいなと思うようになりました」
 死トートとエリザベートの甘いラブストーリーは、エリザベートの人生が苛酷であればあるほど、完全なものになる。当然のことだが、そのためには登場人物一人ひとりが役割を全うし、輝いていることが大事だ。
「舞台は一人ではできません。相手が心を開いてくれてこそ、こちらの言葉も理解してもらえます。 だから私は、自分の考えを押しつけるようなことは絶対に言いたくないんです。役作りで、ちがうんじゃないかな、と思う時は、私はこう思うんだけど、と言う。人に指摘されたからって自分が変われるものではないんですよね。自分で気付いて変わりたいと思わないと、脱皮できるものではありません」
 だからなのか。組子たちが存分に自分らしさを発揮できる状況をつくってあげたい、 と春野寿美礼さんは言う。
「高校受験で気持ちが灰色だった頃、母が宝塚歌劇を見せてくれました。まさに夢の世界!この舞台に立ちたいと思い詰めました。私の夢は、お客様に夢を見て頂くこと。下級生時代は、その私自身の夢を忘れて、ただ、がむしゃらになっていただけのこともありました。振り返ってみると、自分の気持ちに素直になれないときは、本来の力を発揮できなかった。今、どういうことを感じているのかと自問して、本当の気持ちを大切にすると、希望が生まれます。気持ちが落ち込んだときは、そうやって立ち直ってきたように思いますね」
 舞台の世界とは、何と、ごまかしのない正直な世界なのかと、私は身を守る言葉を探す事の多い日常を省みて思った。

インタビュアー
 名取千里(なとり ちさと)

  (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
  /宝塚NPOセンター理事
  主な編著書
  「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
  「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
  「仕事も!結婚も!」(恒友出版)

 

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